日本野鳥の会が発行する、ワイルドバード・カレンダーに掲載されている野鳥について紹介します。
2025年9月の鳥は、「アオゲラ」です。
撮影:山中 忍/撮影地:埼玉県
私が住んでいる東京郊外の公園では、5月の繁殖シーズンになるとアオゲラの声が聞こえてきます。
「ピューッ、ピューッ、ピューッ」という鋭い鳴き声が公園の中でこだまするようになると初夏が来たなあと実感します。
アオゲラはヒヨドリぐらいの大きさのキツツキの仲間ですが、ご承知のように硬い木にくちばしで穴をあけて巣を作ります。
どのくらいの硬さの木に穴をあけているんだろうと、一度試しにアオゲラの古巣の入り口に爪を立ててみたことがあるのですが、
どんなに根気よく頑張ってもびくともしませんでした。この時点で、
「ああ、生き物として負けてるな」と思いました。
なんといっても「飛ぶこと」と「硬い木を削ること」、私が道具を使わずに生身の体でどんなに頑張ってもできないことが二つもあるんですから。
アオゲラはシジュウカラやフクロウのように自然にできた木のうろや隙間を使って巣をつくるのではなく、自分で木に穴を掘って巣作りの場所を創出します。
自分に必要な環境を作り出す能力があるのですね。
木に穴を彫るという特殊能力を使って、東京近郊のアオゲラは1970年代以降、山間地から平地の都市部に繁殖場所を広げてきました。
里山で炭焼きが行われなくなり、大径木の木が増えてきたことや公園に植栽した樹木が大きく成長してきたことで、
巣をつくることができる木や森が都市部に増えたことと関係があるのでしょうか。
徐々に平地の都市部へ分布を広げてきたアオゲラですが、現在関東の都市部や都市近郊の公園ではナラ枯れが広がり、大径木の木がどんどん枯れています。
ナラ枯れによって木が枯れることは、一時的には食料となる虫が増えるのでアオゲラの繁殖にとってプラスかもしれません。
しかし、将来的には大径木の木が少なくなるわけですから、アオゲラが巣作りできる木は減っていくのではないかといわれています。
そうなるともしかしたら一度分布を広げたアオゲラは、徐々にまた山間部を残して減少していくのでしょうか。
こうした長い時間軸の鳥の分布の変化は、関東近県で行われている探鳥会の記録を追いかけていくと見届けることができると思います。
長い時間の流れを俯瞰しながら「この先どうなっていくんだろう」ということを想像しながら楽しむバードウォッチングも面白いと思いませんか?