~じっと見ることから始まる場所の専門家~
※トコロジストとは?詳しくはこちらをご覧ください。
内子町は、愛媛県のほぼ中央に位置し、町の中心部には国の重要文化財に指定された木造の芝居小屋「内子座」や重要伝統的建造物群保存地区があり、愛媛県内有数の観光地となっています。
古い町並みを保存し、観光資源として活用しながらまちづくりを進める内子町は、町並み保存の先進事例として全国でも有名ですが、町並みだけでなく「町並みから村並、そして山並みへ」をキャッチフレーズに山村部を含めた内子町全体の環境保全に取り組んでいます。
内子町環境政策室では、2021年からトコロジスト講座を開催しています。内子町に住んでいる人たちが内子町の古き良き景観を守り育てていけるよう微力ながらお手伝いさせていただいています。
小田地区の皆さんにとって小田深山は、まさに聖地。観光地化されていない深い渓谷ではオオルリがさえずり、苔むしたブナ林と岩盤が織りなす景観は地元に住むみなさんにとっても近くて遠くにある憧れの自然です。
第1回目は、小田地区の中心部にある自治センターを会場に、見慣れた景色の中からいかにして様々な情報に気づくかという練習をしました。普段の生活の中で何となく見ている景色ですが、よく見ているつもりでも実は見過ごしていることがたくさんあります。そこであえて足を止めて、意図的に感覚を開き、目を近づけたり、遠ざけたり、時間をかけながら観察することで実に多くのことに気づくことができるのです。
最初に講義で発見を促す視点の持ち方についてお話しした後、参加者とともに近くの広瀬神社へ移動しました。境内に生えている1本のイチイガシの大木をみんなで取り囲み、「じっと見る」を実践してみました。すると、最初は目に入ってこなかった具体的な情報が目に留まるようになり、次々に小さな発見を拾うことができました。
1本のイチイガシからできるだけたくさんの情報を拾い出す |
例を挙げると、幹に着床したシダ、隠れるように咲いていたマルバマンネンソウ、地面と幹の境目付近で行き来する2種類のアリ。またジグモがハエを捕食している決定的瞬間を目撃したり、ハチやアブの仲間が飛んでいることを確認しました。また樹皮がボロボロとはがれた皮の裏では、正体はわかりませんでしたが、まゆがびっしり張り付いているのを見つけました。
今度は少し後ろへ下がって、大きな樹を俯瞰した視点で見ると、その樹形や枝の伸び方からは、隣の木と太陽の光を取り合うためのポジション争いの様子が見て取れたり、大木のまわりの地面に生えている苔の生え具合から日照との関係を推測したり、時間をかけてみれば見るほど新しい情報を拾うことができました。
拾い出した情報を模造紙にまとめてみる。 |
約1時間足らずの観察で、参加者の皆さんのフィールドノートは文字で埋まっていきました。参加者からは、「今まで神社はよく通りかかっていたけど、1本の木からこんなにたくさんの情報が読み取れるとは思わなかった。」「足を止めてじっくり見るなんてことしないからなあ」といった感想が聞かれました。
身の回りの景色の中から情報に気づくには、特別な専門知識は必要としません。足を止めて、意識的に見ようとしさえすれば誰にでもできます。
みなさんも日ごろの散歩の中で「じっと見る」を意識するところから始めてみませんか?
★次回は、いよいよ小田深山で「じっと見る」ことを実践したご報告をしたいと思います。