日本野鳥の会が発行するワイルドバード・カレンダーに掲載されている野鳥について紹介します。
2024年1月の鳥は、タンチョウです。
撮影:小島 仁 撮影地:北海道
乱獲と生息地の開発により、明治時代に絶滅したと思われていたタンチョウ。再発見された大正13年の生息数は10数羽でした。
大寒波が訪れた際、農家の畑に置かれていたトウモロコシを食べたことから給餌活動がはじまったと言われています。
その後、国や自治体の保護活動がはじまりますが、最もタンチョウ保護に貢献したのは「給餌人」と呼ばれるボランティアで毎日給餌を続けた農家の方々です。
マイナス10度を下回る寒い日も、吹雪の日も、タンチョウたちのために餌を与え続けることは、言葉に言い表すことが難しいくらい大変だったはずです。
1985年から当会はタンチョウ保護の活動を本格的にスタートし、1987年に、釧路の北側にある鶴居村にタンチョウ保護の拠点となる「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」を開設しました。
私が新卒の23歳で、初代のレンジャーとして赴任し、地元の方々に挨拶まわりをしているときのことです。
「おまえみたい若造が一人来て何ができる!一番大変なときに何もしないで、今頃なにしきにきた!」と言われ、地元の方々の苦労をしっかりと感じ、確かにそのとおりだなと思ったことを今もはっきりと覚えています。
ちなみに、この方ですが、数回お邪魔すると、
「おまえさんも一人でたいへんだな。まあ、あがってお茶でものんでけ!」と受け入れてもらえました。
その後は、過去の苦労話やタンチョウにまつわる嘘のような本当の話、いろいろなことを話してくれました。
このあたりの話は、機会があればまた。
当会の鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリを中心としたタンチョウの保護活動は、大きく3つ。
・タンチョウが繁殖する湿原を購入しタンチョウの保護区を設置
1980年代は、バブルの真っただ中です。釧路湿原は国立公園になりましたが、国立公園外の釧路市内の湿原は、埋め立てられ工場や宅地造成が進んでいました。
また、周辺では森林伐採やゴルフ場の計画が次々と立ち上がる、そんな状況でした。
当会では、タンチョウの営巣地となる湿原をこれ以上減らすわけにはいかないと、土地の買い取りをスタートします。現在23ヶ所、その面積は約2800ヘクタールに及びます。
・タンチョウの食害への対応
1987年当時、タンチョウの個体数は383羽。保護活動の成果で、個体数は増加していきます。個体数が増加すれば問題となってくるのは、人間生活との摩擦です。
繁殖に参加しない若いツルたちが、飼料用のトウモロコシ畑で、植え付けた種を食べてしまう問題が発生しました。当会と協定を結び、サンクチュアリの設置に協力していただいた伊藤良孝氏は
「タンチョウが増えていくだろうが人との摩擦も増えていくだろう」とおっしゃっていました。
1990年代に入ると、実際に食害が問題となりました。当会では、鶴居村だけの問題ではなく、さらに生息地が拡大していった場合の対策を考えることも含め、若いツルたちを追い払うと同時に、いろいろな手法を考えていくことになりした。
・自然採食地の整備
個体数が増えるともう一つの問題が出ていきます。給餌場の過密化です。
一つの給餌場に数百羽のタンチョウが集まることになりますので、伝染病の発生等の心配も出てきます。
ここでも伊藤良孝氏の長年の経験がヒントとなります。
「昔は小さな川や川沿いに湧水地がたくさんあり、厳冬期でもタンチョウたちが餌をとっていた。今は藪になっているから、その藪を刈り払ってやればタンチョウたちが入れるようになる」という話から、自然採食地の整備がはじまります。
この事業は現在も継続していて、全国からの学生ボランティアや地元の企業等の協力によって、維持整備されています。
近年高病原性鳥インフルエンザによって、多数の野鳥が死んでいます。タンチョウも例外ではなく、この冬はすでに4羽のタンチョウが死んでいます。この事業は、これからも重要ものとなっていくはずです。
思い入れが強すぎるせいか、今回はかなり文字数が多くなってしまいました。
1月から2月は、タンチョウにとって恋の季節。若いツルは結婚相手を見つけるため、つがいのツルはお互いの愛を確かめるため、いたるところで恋のダンスが繰り広げられます。その姿は、私たち人間にも美しく感じ、楽しませてくれます。
冬のタンチョウに会いたい方は、鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリのホームページをご覧ください。
https://tancho.marimo.jp/
春から夏の間、タンチョウたちは道東の各地の湿原で繁殖します。
現在タンチョウの個体数は1900羽になりました。根室地方の湿原では、割合簡単に湿原で生活するタンチョウの
姿を見ることができます。
繁殖地のタンチョウに会いたい方は、春国岱原生野鳥公園ネイチャーセンターのホームページをご覧ください。
https://www.marimo.or.jp/~nemu_nc/workn/
普及室 富岡